屍者の帝国 概要
公開日:2015年10月2日
『屍者の帝国』は、伊藤計劃が生前に構想したプロットを円城塔が完成させた同名SF小説を原作とする、2015年公開のアニメーション映画です。
監督は牧原亮太郎、アニメーション制作は『進撃の巨人』で知られるWIT STUDIOが担当しました。
本作は「Project Itoh」三部作の一つで、他に『虐殺器官』『ハーモニー』があります。
上映時間:120分。 興行収入:不明。
キャッチコピーは「求めたのは、21グラムの魂と君の言葉」。
- 原作:伊藤計劃、円城塔
- ジャンル:哲学/思想SF・スチームパンク・冒険/ロードムービー・サイコロジカル
- 配給:東宝映像事業部
- アニメ映画公開:2015年
- 監督:牧原亮太郎
- 制作会社:WIT STUDIO
原作完成の舞台裏:円城塔の葛藤
原作小説『屍者の帝国』は、伊藤計劃が冒頭30ページのみを残して逝去した後、親友で芥川賞作家の円城塔が遺族の承諾を得て執筆を引き継ぎ、完成させた作品です。
円城は「なぜ僕の作品じゃなかったのか?」とジョークを交えつつも、「ああすればよかった、と未だにうなされることがある」と語り、伊藤計劃の遺志を継ぐことの重圧と葛藤を明かしています。
監督自らのカウントダウン漫画
映画公開前、牧原亮太郎監督は公式ウェブサイトで「屍者の帝国おまけWEB漫画」と題したカウントダウン漫画を自ら描き、公開しました。
この漫画は、作品の世界観やキャラクターを分かりやすく紹介しており、ファンの間で話題となりました。
監督自らが手がけたこの取り組みは、作品への深い愛情とこだわりを感じさせます。
あらすじ
19世紀末、死者を蘇らせて労働力や兵器として利用する「死体蘇生技術(ネクロマンス)」が世界中に広まっていた。
人々は「魂」を持たず、命令に従うだけの屍者を社会のインフラとして当たり前のように受け入れていた。
ロンドン大学の医学生ジョン・H・ワトソンは、亡き親友フライデーを密かに屍者として蘇らせる。
彼は、ただ命令を実行するだけの存在ではなく、かつてのように“心”を持ってフライデーと向き合いたいという願いを抱いていた。
そんな中、ワトソンは英国政府の諜報機関「ウォルシンガム機関」にスカウトされる。
彼に課された任務は、屍者に意志と言葉を与えるとされる“フランケンシュタインの手記”を探し出し、その技術の核心に迫ることだった。
フライデーと共に旅立ったワトソンは、アフガニスタン、インド、日本、アメリカと世界を巡り、死体蘇生技術の影に潜む陰謀と、数多くの屍者たちの姿を目の当たりにする。
彼の前に現れるのは、死と生の狭間で揺れる人々、そして「意思を持つ屍者=ザ・ワン」の存在だった。
旅を続けるうちに、ワトソンは次第に「魂」とは何か、「人間らしさ」とは何かという問いに直面していく。
果たして屍者は単なるモノなのか。それとも、そこに心が芽生える可能性があるのか――。
科学と哲学、愛と倫理が交錯するこの旅の果てに、ワトソンが見つけた答えとは。
そして、フライデーとの絆が迎える結末とは──。
注目ポイント!
死者が「労働力」として使われる世界観
ただのゾンビものじゃない!
屍者たちは道具のように使われ、人間社会の中に組み込まれています。
この”死を管理する世界”という設定は、倫理的・社会的なテーマを深く掘り下げていて、他のSF作品と一線を画しています。
重厚なビジュアルと音楽
アニメーション制作は『進撃の巨人』などを手がけたWIT STUDIO。
19世紀のヨーロッパや中東、日本といった各国の風景が美しく描かれ、映像美にも注目です。
意思を持つ「屍者」=ザ・ワンの謎
物語の鍵となるのが、「自我」と「言葉」を持つ唯一の屍者「ザ・ワン」。
彼の存在が、死と生命の境界を揺るがす哲学的な問いを投げかけます。
「人間らしさ」とは何か、というテーマにグッと引き込まれます。
ワトソンとフライデーの関係性
ワトソンと屍者フライデーの絆が物語の感情的な軸になっています。
フライデーは心を持たないはずなのに、次第に変化していく様子は感動的で、切ない。
言葉を交わせない2人の絆が静かに胸を打ちます。
「Project Itoh」三部作の一つ
本作は、伊藤計劃の世界観を映像化する「Project Itoh」の三部作の一つ
「Project Itoh(プロジェクト・イトウ)」とは、天才作家・伊藤計劃(いとうけいかく)の作品群を原作にした、アニメーション映画プロジェクトの総称です。
伊藤計劃が遺した3つの長編SF小説――
- 『虐殺器官』
- 『ハーモニー』
- 『屍者の帝国』
これらを原作として、2015年に3本の劇場用アニメ映画として一挙に企画・制作されました。
伊藤計劃は2009年に34歳の若さで亡くなりましたが、彼の作品は思想的・哲学的な問いをハードなSF世界で描いたことで非常に高い評価を受けています。
Project Itohは、その思想やビジョンをアニメーションという形で広く伝えることを目的とした試みで、まさに「映像による文学作品」とも言える重厚なシリーズです。
他作品とゆるやかにテーマがつながっており、人間の自由、社会、倫理といった共通の問いが描かれています。
三部作として観るとより深い理解が得られます。
あとがき
『屍者の帝国』は、死者が社会インフラとして機能する19世紀末の世界を舞台に、人間とは何か、魂とは何かを問う壮大なSF作品となっている。
まず圧倒されるのは、その独創的な世界観。
フランケンシュタインの技術によって蘇った死者たちが、軍事や労働の道具として当然のように使われる社会。
その異様な日常が、どこかリアルに描かれており、観る者を引き込む。
物語の中心にあるのは、主人公ワトソンと、彼が蘇らせた親友フライデーとの関係。
言葉を持たない屍者であるフライデーに、ワトソンはかつての“心”を取り戻そうとする。その旅路は、外の世界を巡ると同時に、人間の内面を探る内省の旅でもある。
本作は、冒険やアクションだけにとどまらず、哲学的な問いを深く掘り下げていく。
とりわけ「自我とは何か」「魂とはどこに宿るのか」といったテーマは、作品全体を貫く重みとなっており、観る者に確かな余韻を残す。
映像は非常に美しく、各国の風景や屍者たちの描写は、幻想的でありながらもリアリティに満ちている。
また映像中の音楽は、重厚で神秘的な空気感を醸し出し、物語の世界観をより深く印象づける。
娯楽性と思想性が融合したこの作品は、観る人を選ぶかもしれないが、そのぶん、心に強く残る。
死と生の狭間に存在する屍者という存在を通して、人間とは何かを見つめ直させてくれる一作である。
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