サカサマのパテマ 概要
公開日:2013年11月9日
『サカサマのパテマ』は、吉浦康裕監督による日本のアニメーション映画で、2013年11月9日に公開されました。
この作品は、第17回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞やスコットランド・ラブズ・アニメ2013の観客賞および審査員賞を受賞しています。
上映時間:99分。興行収入2530万円。
キャッチコピーは「手を離したら、彼女は空に落ちていく。」
興行収入だけを見れば、あまり人気とはいえず認知度も高くはないですが、隠れた名作としておススメできる一本です。
- 原作:吉浦康裕
- ジャンル:SFアドベンチャー・ロマンス・ドラマ
- 配給:アスミック・エース
- アニメ映画公開:2013年
- 監督:吉浦康裕
- 制作会社:スタジオ・リッカ
あらすじ
かつて世界では、ある実験によって重力のバランスが崩壊する大災害が起きました。
その影響で、地球には重力の向きが異なる人々が生まれ、一部は「空に落ちていく」ように逆さまの世界で暮らすことになったのです。
少女パテマは、重力が「逆向き」の地下世界の住人。
パテマはある目的のため地下世界からアイガへと「落ちて」しまったのだった。
そこで出会ったのが、地上世界「アイガ」に暮らす少年エイジ。
彼の世界では「空に落ちた者」は罪人とされ、空を不浄なモノという徹底した思想教育・洗脳教育が蔓延っていた。
そんな中でエイジは、パテマのような“異なる存在”に出会い、彼女を助ける決意をする。
パテマにとっては、エイジの「地面」が空であり、彼の「空」が自分の足元。
重力が真逆のふたりが手を取り合って行動する姿は、まさに互いの世界観を補い合うような関係を造りだしていきます。
しかし、ふたりの行動は、アイガを支配する独裁者・イザムラの目に留まり、「サカサマ人」を排除しようとする動きが強まっていく。
追跡、隔離、衝突……。
閉ざされた世界に生きるふたりは、やがてそれぞれの世界の本当の姿と、過去の真実に直面していくことになる。
注目ポイント!
上下逆転の世界観と重力の演出
『サカサマのパテマ』の最大の特徴は、「重力が逆さまの人間たちが存在する」という世界設定。
パテマの世界では、空に落ちないように天井にしがみつく生活が当たり前。
一方、エイジの世界では「空を見ること」すらタブーです。
2人が出会い、異なる重力のまま一緒に行動することで、“重力”が感情や関係性の比喩として機能します。
カメラアングルも場面ごとに視点が反転し、観ている側も「自分がどちらの重力に立っているのか」感覚が揺さぶられる構成になっていて、視覚的な驚きが満載です。
エイジとパテマのバディ関係
重力が真逆な2人は、お互いにとっての“落ちていく方向”が違います。
だからこそ、物理的に「手をつなぎ合っていないと危険」という設定が強烈な緊張感とつながりを生みます。
最初は不信感や戸惑いもあるものの、2人は少しずつ心を開き、信頼と絆を築いていきます。
そのプロセスがとても丁寧に描かれていて、王道のバディもののような爽快感と共感があります。
彼らの関係性は、「違う立場の人間でも、理解しあい、支え合える」という物語のテーマとも重なっていて、ぐっと心に刺さります。
社会の管理と自由への問いかけ
エイジが暮らすアイガでは、空は「罪の象徴」、外を見ることは「禁忌」とされ、絶対的な支配者・イザムラのもとで人々は抑圧された暮らしをしています。
教育も管理され、人々は考えることをやめてしまっている。
そんな世界で、エイジはただ空を見上げるだけで異端視される存在。
パテマとの出会いを通して彼が社会に問いを投げかけ、「本当の自由とは何か?」というテーマが浮き彫りになります。
つまりこれは、管理社会における個人の意思や自由に対する静かな反抗の物語でもあるんです。
世界の成り立ちと過去の秘密
物語が進むにつれて、なぜ重力が逆さまの人々がいるのか、地上と地下の世界はどうして分断されたのか、といった謎が少しずつ明かされていきます。
登場人物の親世代に関わる出来事や、失われた歴史、隠された研究など、SF的な背景設定も緻密に作られていて
観ていて
「なるほど…!」
と唸る瞬間がいくつもあります。
ミステリー的な楽しさもあり、ラストで世界の構造が明らかになると、最初のシーンをまた見返したくなるような構成です。
音楽とビジュアルの詩的な表現
音楽は『鋼の錬金術師』などでも知られる大島ミチルが担当。
幻想的で静かな音楽が、どこか物悲しくも美しい雰囲気を醸し出しています。
特に印象的なのが、クライマックスシーンでの空と地面が入れ替わるような映像演出。
無重力に近い浮遊感や、「落ちる」ことの恐怖と解放が同時に描かれるシーンは圧巻です。
映像も光や影、空間の広がりを丁寧に描いていて、セリフがなくても感情が伝わるような演出が多く、じっくり世界に入り込めます。
あとがき
『サカサマのパテマ』は、観終わったあとに「視点って、こんなに世界を変えるんだ」って改めて気づかせてくれる映画でした。
まず、“重力の違い”を通して描かれる価値観のズレがものすごくおもしろい。
パテマにとっての「落ちる」は、エイジにとっての「落ち着く」。
逆にエイジの地面は、パテマにとって「空に吸い込まれる恐怖」なんですよ。
でも、ふたりは手をつなぎ合って、互いの世界を少しずつ理解していく――
その姿が、とても美しくて、切なくて、温かい。
物語自体は静かで派手じゃないけど、じわじわ胸に染み込んでくる。
アクションよりも、人の心の動きや関係性に重点があるから、「静かな感動」を求めてる人にはすごく響くと思う。
そして、最後に
「空とは何か? 自由とは? “正しさ”とは誰が決めるのか?」
という問いが、ふわっと心に残る。
それを声高に言わず、視覚や状況の中で語らせているのが、ものすごく丁寧で好感持てました。
また、音楽や映像についても。
映像の演出は本当に素晴らしくて、「ただのアニメ映画」って言葉じゃ片づけられない芸術性がある。
空に落ちていくような浮遊感とか、逆さまの建物とか、何気ないシーンが全部詩的なんです。
大島ミチルの音楽もやわらかくて心地よくて、世界観をさらにふくらませてくれます。物語の静けさと余白を、音がちゃんと支えてくれてる感じ。
「SFだけど哲学的」「ロマンスもあるけど甘すぎない」「冒険だけど内面的」――
そんなバランスが好きな人には刺さると思います。
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