夜は短し歩けよ乙女 概要
公開日:2017年4月7日
『夜は短し歩けよ乙女』は、「ペンギン・ハイウェイ」などの作品も手掛ける森見登美彦 氏による長編小説が原作です。
2006年に角川書店より出版されており、100万部を超える大ベストセラー作品です。
「ドラえもん」や「クレヨンしんちゃん」シリーズなど国民的アニメ映画の制作に携わっており、最近では「SPY×FAMILY」などのコンテンツにも参加されている湯浅監督の力作です。
上映時間:93分。 興行収入:5.3億円。
キャッチコピーは「こうして出逢ったのも、何かのご縁」。
- 原作:森見登美彦(角川文庫刊)
- ジャンル:ロマンティック・コメディ・マジカルリアリズム・ナンセンス/シュール
- 配給:東宝映像事業部
- アニメ映画公開:2017年
- 監督:湯浅政明
- 制作会社:サイエンスSARU
京都を舞台にした、一夜のファンタジックな青春譚です。
現実と幻想が入り混じる中で、恋する「先輩」が、なかなか振り向いてくれない「黒髪の乙女」を追いかけ、奇妙で愉快な夜をめぐる物語です。
あらすじ
舞台は京都。
主人公の大学生「先輩」は、同じサークルの後輩である「黒髪の乙女」に密かに恋をしている。
しかし彼には告白する勇気がなく、日々彼女と“偶然”を装って接近を試みる「ナカメ作戦(なるべく彼女の目に留まるようにする作戦)」を実行中。
一方、自由奔放で好奇心旺盛な「黒髪の乙女」は、その夜、街へ繰り出して次々と奇妙な出来事に巻き込まれていく。
古本市、謎の演劇、幻想的な夜の酒場、秋の奇妙な大学祭など……。
すべてが一夜の出来事とは思えないほど濃密で非現実的な“京都の夜”が展開される。
そんな中、「先輩」は彼女に振り向いてもらうために、彼女のあとを必死で追いかけ続けるが――
現実と空想が交錯する夜を越えて、二人の距離は少しずつ変わっていく。
注目ポイント!
湯浅政明監督による、唯一無二のアニメーション演出
この映画最大の特徴は、なんといっても湯浅政明監督ならではの独特なビジュアル表現です。
背景は緻密で懐旧的なのに、キャラクターは時にコミカルに、時に夢の中のように歪み、常識的なアニメーションの枠を超えた自由な動きが満載。
現実世界の“夜の京都”が、不思議な魔法にかけられたようなファンタジー空間へと変わっていく様子は、ただ眺めているだけで心が浮き立ちます。
“夜の京都”が持つノスタルジックで幻想的な雰囲気
舞台となるのは大学生たちが集う京都の街。お酒をめぐる出会い、古本市、謎の演劇、夜店の賑わい……。
現実味のある場所が、まるで童話の中の街のように変貌していきます。
日常のすぐ隣にある“非日常”を感じさせるこの京都の描き方が本当に魅力的。
どこか懐かしく、だけど現実とはちょっと違う“もう一つの世界”を旅しているような気分になります。
天真爛漫なヒロイン「黒髪の乙女」の魅力
物語の中心にいるのは、好奇心のままに夜の街を歩き回る“黒髪の乙女”。
自分の欲望にまっすぐで、誰にでも分け隔てなく優しく、ほんのり天然。そんな彼女の姿が周囲を明るく照らし出し、見る人を自然と笑顔にさせてくれます。
小柄で可愛らしい見た目と裏腹に、どんなトラブルにも物おじせず立ち向かう姿はまさに“無敵”。
彼女の自由な精神が、作品全体を温かく彩っています。
シュールでクセになる“奇人たち”による群像劇
乙女や先輩の周囲には、ひと癖もふた癖もあるキャラクターが多数登場します。
常にパンツを探し続ける男、謎の演劇団の団長、超個性的な書店主たちなどなど。
まるでおとぎ話の住人のような奇人変人たちが、夜の京都を舞台に大騒動を巻き起こします。
彼らの言動はときに突飛で、ときに哲学的で、だけどどこか人間味にあふれていて、“混沌の中にある温かさ”を感じさせてくれるのです。
不器用な先輩の“恋の追いかけっこ”が胸を打つ
何よりこの物語は「一人の不器用な青年が、ひそかに想いを寄せる後輩の心にどう近づくか」を描いたラブストーリーでもあります。
先輩はあくまでも“偶然の出会い”を装って、彼女と自然に仲良くなろうと奔走しますが、その作戦は空回りばかり。
それでも諦めず、必死に彼女を追い続ける姿は、滑稽で愛おしく、観る者の心をぎゅっと掴みます。
「好きな人に好きって言えない」そんな気持ちに、きっと誰もが共感できるはずです。
あとがき
この映画は、とにかく独特です。でもそれがいい。
普通のラブストーリーのようでいて、実際には幻想・群像劇・哲学・おとぎ話のような要素がギュッと詰まっていて、ひと言では言い表せない面白さがあります。
まず映像が本当にユニーク。
湯浅政明監督の自由なアニメーションは、“常識”を飛び越えていて、「こんな描き方があったのか」と驚かされます。
テンポもよく、セリフもリズミカルで、まるでポエムと落語と演劇が混ざったような独特のリズム感が心地よいです。
「黒髪の乙女」のキャラクターは、観ていて本当に癒やされる存在。
まっすぐで、元気で、誰にでも優しい。だけどただの理想化されたヒロインではなく、自分の世界を大切にしている芯のある女性として描かれているのが好印象です。
そして何より、先輩の恋心に共感してしまう。
うまく言えないけど「ずっと誰かを想っている感じ」って、甘くて、苦くて、ちょっと切ない。
その“片想いの一晩”を、ここまでファンタジックに、でもどこかリアルに描いている作品はなかなかないと思います。
ラストシーンは多くを語らないですが、その分、観終わったあとにじんわりとあたたかさが残る。
観た人それぞれが「自分の青春」や「大切な人」を思い出すような、不思議な余韻がある作品です。
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