夏へのトンネル、さよならの出口
公開日:2022年9月9日
八目迷によるライトノベルが原作です。第13回小学館ライトノベル大賞にてガガガ賞および審査員特別賞を受賞し、2019年7月に刊行されています。
物語は、失ったものを取り戻せるという噂の「ウラシマトンネル」を巡る、青春と成長の物語を描いています。
主人公たちがそれぞれの願いを抱えながらトンネルに挑む様子が繊細に描かれ、感動的なストーリーが展開されます。
キャッチコピーは「あの日の君に会いにいく」。
上映時間:83分。興行収入1億円。
- 原作:八目迷
- ジャンル:青春ファンタジー・SF・恋愛・ミステリー
- 配給:ポニーキャニオン
- アニメ映画公開:2022年
- 監督:田口智久
- 制作会社:CLAP
田口監督は、キャラクターの演技をできるだけリアルにするために、先に収録を行ってから声に合わせて作画をしています。
さらに主人公・塔野カオルを演じた鈴鹿央士さんと、ヒロイン・花城あんず役の飯豊まりえさんは、どちらも声優初挑戦。
制作陣は「リアルな高校生の声」を重視し、あえて声優ではなく俳優を起用したそうです。
その結果、ナチュラルな会話劇が成立しました。
あらすじ
高校生の「塔野カオル」は、父との二人暮らし。父は酔って帰ってきてはカオルに暴力をふるう鬱屈とした日々を過ごしていた。
いつもと変わらない毎日。。何気なく周りの声に耳を傾けると聞きなれない言葉が耳を過る。
『ウラシマトンネル――』
「ウラシマトンネル」に入ると何でも願いが叶うけれど、大切な物が奪われちゃうんだってさ……。
半信半疑ながらも、カオルは何か強い想いから噂のトンネルを探し出そうと決意した。
そんな中、カオルのクラスに「花城あんず」が転校してくる。彼女は周りの仲良くしようとはせず、浮いた存在となっていく。あんずにも強く望む願いがあり、「ウラシマトンネル」を探しているのだった。
二人はお互いの目的を隠しながらも協力することを決意し、トンネルの研究と探索を重ねるようになる。
やがて二人は心を通わせ始めるが、トンネルを使うたびに周囲の時間が大きく経過するという現実に直面する。
願いを叶えるために犠牲にしなければならないものとは何か――。
カオルとあんずはそれぞれの「本当の願い」に向き合い、葛藤しながらも答えを見つけ出そうとする。
注目ポイント!
ウラシマトンネルの謎と設定
「ウラシマトンネル」は物語の中核を成す重要な存在で、名前の由来は「浦島太郎」の伝説から来ていると思われます。
このトンネルでは内部で過ごす時間と現実世界での時間の流れが異なります。願いを叶える代わりに、代償として時間を奪われるという設定が物語の緊張感を高めている。
カオルは「亡くした妹を取り戻す」という強い願いを抱いてトンネルに挑むが、その存在自体が謎めいており、なぜ存在するのかや原理については明確に語られない。
ホラー的な怖さはないものの、時間を奪われることへの恐怖や不安感が常に物語に漂わせます。
カオルとあんずの関係性の変化
塔野カオルと花城あんずは、共通の目的を果たすために協力することになる。
カオルは妹を取り戻したいという強い願いを抱えており孤独を感じながらも日常を生きており、あんずもまた自分の願いを叶えるためにトンネルを利用しようとしている。
二人は利害の一致によって協力関係を築くが、トンネルの研究を進めるうちに自然と友情や信頼が芽生え始める。
お互いが抱える過去の痛みや葛藤に理解を示し、支え合う中で次第に惹かれ合っていく過程が感動的であり、友情から恋愛へと変化する関係性が物語の大きな魅力となっています。
「願い」と「喪失」のテーマ
誰もが抱える「喪失感」や「取り戻したいもの」に焦点を当てています。
カオルは事故で亡くした妹への後悔と罪悪感に囚われ続けており、あんずもまた自身の夢や目標に関わる問題を抱えています。
「ウラシマトンネル」という設定は、人が持つ「叶わない願い」や「過去への執着」を象徴的に表現しており、トンネルを通じて何かを取り戻すという行為には常に代償が伴うという教訓にも似たメッセージ性があります。
幻想的で美しい描写
鮮やかな色彩や幻想的な風景が作品の世界観を一層引き立てています。
イラストレーター「くっか氏」が描く緻密な憧憬や構図、キャラクターの魅力を充分に引き立てる色彩や明暗が印象的です。
アニメ作画でもくっか氏のキャライラストがとても雰囲気にあっていて見ごたえ充分です。
意外性のある結末
物語の結末は、全体を締めくくるにふさわしい感動的な展開となっています。
カオルとあんずはそれぞれの願いにどう向き合うかを考え抜き、、叶えたい願いとリスクの間で究極の選択を迫られます。
最終的に二人が選ぶ「答え」は単純なハッピーエンドではなく、むしろ読者に深い余韻を残すものとなっているので、最後まで予測できない展開と、それでも光を見出そうとする二人の姿は感動が多くの読者や視聴者に強い印象を与えます。
あとがき
『夏へのトンネル、さよならの出口』は、美しい映像と繊細な感情描写が印象的な作品だった。
特に、「喪失」と「願い」をテーマにした物語の深さに心を打たれました。カオルとあんずが、それぞれ自分の大切なものを取り戻すためにトンネルを探索する姿は切実で、必死で、共感を呼ぶものがあった。
物語の中で描かれるウラシマトンネルは、単なる不思議な場所というだけでなく、人が抱える「叶えられない願い」を映し出す象徴のように感じた。
願いを叶える代償として時間を奪われるという設定が、とても残酷で美しかったと思います。同時に、現実でも何かを得るためには何かを失わなければならないことを暗示しているようで、リアルな感情に訴えかけてきます。
カオルとあんずの関係も素晴らしかった。最初はお互いを利用しようとしていた二人が、トンネル探索を通じて少しずつ心を通わせていく過程が丁寧に描かれていて、自然に感情移入できた。
特に、自分の痛みや後悔を打ち明け合いながらも、前に進もうとする姿に胸が熱くなった。恋愛としても良かったですが、それ以上にお互いを支え合うパートナーとしての絆がしっかり伝わってきました。
劇場版ではトンネル内の幻想的な描写が本当に綺麗で、原作で感じた神秘的な雰囲気が視覚的に表現されていたのが感動的だった。光の演出や音楽も良くて、まるで夢の中に引き込まれるような感覚を味わえた。
ただ、ウラシマトンネルの存在や仕組みについてはあまり明かされないままで、もっと掘り下げてほしいと思った部分もあった。でも、その謎が残ることで余韻が深まり、いろいろ考えさせられるのも魅力なのかもしれない。
結末もとても良かったです。
希望だけでも絶望だけでもない、切なさの中に微かな光を見出すようなラストが心に残った。単純なハッピーエンドではないけれど、二人が自分なりの答えを見つける姿に感動しました。
全体的に、幻想的な設定と現実的な感情が絶妙に絡み合った素晴らしい作品だと思う。
切ないけれどどこか温かくて、見終わった後もしばらく考え続けてしまうような物語でした。
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