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“正しさがすべてじゃない”『ハーモニー』 表裏一体の管理社会 おすすめアニメ映画 レビュー・感想

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ハーモニー  概要

公開日:2015年11月13日

『ハーモニー』は、伊藤計劃の長編SF小説です。2008年に原作が刊行されており、2015年に公開されたアニメーション映画です。

『ハーモニー』は、伊藤計劃の他の作品虐殺器官屍者の帝国と同じ世界観を共有しており、これらの作品群は「Project Itoh」としてまとめられています。

​また、映画のビジュアルや音楽も高く評価されており、特にEGOISTが担当した主題歌は作品の世界観を引き立てています。​

上映時間:120分。 興行収入:不明。

キャッチコピーは「行こう。向こう側へ」。

  • 原作:伊藤計劃
  • ジャンル:SF・サスペンス・心理ドラマ・ディストピア
  • 配給:東宝映像事業部
  • アニメ映画公開:2015年
  • 監督:なかむらたかし、マイケル・アリアス
  • 制作会社:STUDIO 4℃

<天才>伊藤計劃は、『ハーモニー』を通じて、極端な健康志向と調和を重んじる社会がもたらす息苦しさや個人の自由の喪失について警鐘を鳴らしています

彼自身が病と闘っていた経験が、作品のテーマに深く影響を与えており、ユートピアの裏に潜むディストピア的な要素を描き出しています 。

あらすじ

かつて核戦争と大規模な災害によって荒廃した世界は、やがて「生府(ライフガバメント)」と呼ばれる全地球的な健康管理システムによって再生された。

この新たな理想社会では、人々の健康状態や行動、感情までもが体内に埋め込まれたナノマシン「WatchMe」によって常時監視・制御された争いや病もない調和の世界が実現していた。

そんな社会の中で生きる霧慧トァンは、かつて「調和」に反発し、13歳のときに仲間たちと共に集団自殺を図った過去を持つ。

事件の中心にはミァハ・ユリィという少女がいたが、彼女はその後死亡したとされていた。

トァンだけが生き残り、大人になった彼女は今、国際機関に属する特別捜査官として、社会の秩序維持に従事している。

ある日、世界中で人々が突如として一斉に自殺するという不可解な事件が発生。

調査を進める中で、トァンは死んだはずのミァハが生きており、この事件の背後にいることを知る。

ミァハは、生府が生み出した“人間らしさを喪失した世界”に反旗を翻し、人間が本来持っていた自由と死を取り戻そうとしていたのだった。

かつて親友だったミァハと対峙する中で、トァンは自身の心の奥底に眠っていた「自由への渇望」に向き合い、また同時に、生府という巨大な社会装置の本質を問い直すことになる。

完全な健康と調和の名のもとに奪われてきた「選択の自由」とは何か。

人間らしさとは何か

葛藤の末に、彼女が下した決断は――

注目ポイント!

世界観の美しさと不気味さの融合

白とピンクを基調とした、まるで病院のように清潔で整った世界。

一見するとユートピアのようだが、その「清潔さ」が逆に不気味で、管理されすぎた社会の息苦しさが静かに伝わってきます。

ビジュアルと音楽の静けさも相まって、不安感がじわじわと湧いてきます。

主人公・霧慧トァンの複雑な内面

トァンは理想社会に属しながらも、その仕組みに疑問を抱き続けている人物。

合理性と自由、過去の罪と現在の使命――

彼女の葛藤や迷いが物語の軸となっており、人間らしさと向き合う姿に共感や苦しさを感じる人も多いはずです。

ミァハ・ユリィの思想と存在感

ミァハはカリスマ的な存在であり、生府に反旗を翻す反体制の象徴。

「死こそが自由である」と語る彼女の思想はショッキングでありながら、その背景にある論理や信念には一理あると感じさせる説得力があります。

彼女とトァンの関係性も、物語を深くしている要素です。

「WatchMe」による徹底的な自己管理社会

体内ナノマシン「WatchMe」が、健康・感情・思想までも監視・制御する社会。

一見完璧なテクノロジーによる福祉社会だが、そこにあるのは“選ばされている自由”でしかない。

その危うさに気づけるかどうかが、本作の核心に関わってきます。

伊藤計劃の思想が息づくセリフと構成

原作の伊藤計劃が作品に込めたテーマ――

「生きるとは何か」

「自由とは何か」

――が、セリフや章構成、演出に色濃く現れています。

音楽や文学的なリファレンスも多く、知的好奇心を刺激します。

あとがき

『ハーモニー』の世界観は、白とピンクの清潔感あふれるビジュアルで、まるでユートピアのように見えます。

しかし、その美しさの中には、無機質で感情を排除した管理社会の恐ろしさが隠れていました。

全てが最適化され、完璧に調和された社会の裏に潜む不安感や、抑圧された自由が少しずつ表面に現れてくるのです。

このビジュアルとテーマのギャップが、作品の魅力の一つだと感じました。

そんな社会の中で、主人公の霧慧トァンは、非常に複雑で深いキャラクターでした。

彼女は、理想社会に生きながらもその体制に対して疑念を抱き続けている人物であり、最初は社会の枠組みに従って仕事をしているものの、過去の事件や現在の状況に対して次第に

「自分に与えられた自由とは何か?」

と問い始めます。

特に、かつて仲間だったミァハと再会することで、彼女の内面が揺れ動き、自由と責任、個人の欲求と社会の秩序の間で大きな葛藤を生みます。

トァンが最終的にどのように選択を下すのか、その成長が非常に印象的でした。

ミァハ・ユリィのキャラクターは非常に強烈で、物語の中でも重要な存在感を放っています。

彼女は生府という管理社会に対して反旗を翻し、「死を選ぶことでこそ、生きる意味がある」という極端な思想を持っています。

その思想は、非常に危険で破壊的でありながら、どこか説得力を感じさせる部分もあります。

特に、彼女の言葉や行動がトァンに与える影響が大きく、観客としても彼女の思想に引き込まれる瞬間がありました。

ミァハの死後もその影響力は強く、彼女の理念がどのように社会に波紋を広げるかが大きなテーマとなっていました。

『ハーモニー』は「自由」と「管理」というテーマを深く掘り下げています。

生府という社会は、表向きは完璧に調和された理想的な場所のように見えますが、その中で個人の自由は犠牲にされています。

監視され、最適化された生活を送ることが「良いこと」とされ、自由意志を持つことがリスクとなる社会。

このような社会において、真の自由とは何かを問いかけるテーマは非常に重く、観る者に深い思索を促します。

トァンがどのようにしてこの問いに向き合い、最終的に自分の道を選ぶのか、その過程が物語を通して見事に描かれています。

映画を観終わった後、単なるSFやディストピア作品にとどまらず、深い哲学的なテーマについて考えさせられました。

「死」と「生」、「自由」と「管理」

の対立は、現代社会においても普遍的な問題であり、観客はそのテーマに共鳴し、心の中でその問いに答えを出すよう促されます。

また、映画のクライマックスに向けて、感情的に非常に強いインパクトがあり、最後に訪れるトァンの決断が観客に深い余韻を残します。

映画を観た後、しばらくそのテーマについて考え続けたくなる、そういう力を持った作品だと感じました。


「Project Itoh」 『harmony/<ハーモニー>』』 公式サイト


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