金の国 水の国 概要
公開日:2023年1月27日
『金の国 水の国』は、岩本ナオが原作で「月刊flowers」に掲載されていた漫画作品です。
「このマンガがすごい!」や「マンガ大賞」で賞を獲得し2023年1月27日に劇場版アニメが公開されています。
上映時間:117分。 興行収入:4億9700万円。
キャッチコピーは「最高純度のやさしさ溢れる”結末”にあなたはきっと涙するーー。」
- 原作:岩本ナオ(小学館「月刊flowers」連載)
- ジャンル:ファンタジー・ロマンス・ヒューマンドラマ
- 配給:ワーナー・ブラザース映画
- アニメ映画公開:2023年
- 監督:渡邉こと乃
- 制作会社:マッドハウス
原作者の岩本ナオ 氏は、連載当初から「正統派ラブストーリーを描くつもりはなかった」と語っています。
それよりも重視したのは、「他人を理解する」「違いを受け入れる」というテーマ。
サーラとナランバヤルの関係が“恋愛”というより“人と人”として描かれているのは、このポリシーに基づいているそうです。
また、この作品は実は映画化までに「10年以上」待たれた作品です。
原作漫画は2017年に完結し、その時点でかなり話題になっていましたが、アニメ映画化の話は長い間ありませんでした。
その理由は「作品の繊細な空気感を壊さずに映像化できるか」の判断が難しかったため。
なので、2023年の映画化は“満を持して”の企画でありかなりの良作になっています。
あらすじ
かつて、隣り合うふたつの国――
- 金の国「アルハミト」:富と権力に恵まれた、豪華絢爛な都市国家
- 水の国「バイカリ」:水源が豊かで自然あふれるが、貧しく内向的な国
このふたつの国は、何十年もの間ずっと敵対関係にあった。
国境線を巡る争いや、文化の違い、価値観の衝突が絶えず、交流はほとんどなかった。
過去両国を治めていた王たちは、「金の国から1番の美女を」、「水の国からは1番かしこい青年を」両国に送り“象徴的な和平”を取り繕うとした。
しかし、お互いの王家は――
水の国は犬を結婚相手として送りつけ、金の国は嫁として猫を送りつけるという暴挙にでたのであった。
この奇妙な“犬の花嫁”に抜擢されたのが、バイカリの心優しい女性・サーラ。
一方アルハミトでは、辺境の貧乏な青年・ナランバヤルが、象徴的な“婿”として表舞台に出される。
しかし二人はひょんなことから偶然出会い……。国の都合に振り回されながらも、「偽りの夫婦」として共に暮らすことに。
初めはぎこちないながらも、次第に心を通わせていくサーラとナランバヤル。
共に過ごす日々の中で、互いの国の文化や価値観、そして本当の願いを知り合っていく。
しかし、そんな二人の平穏な時間は長くは続かない――
両国の根深い対立が再び動き出し、和平どころか戦争の火種が広がろうとしていた。
国の思惑、民の不安、貴族たちの陰謀、そして王たちの決断……。
ナランバヤルは、自らの立場をかけてバイカリの危機に向き合おうとし、
サーラもまた、静かに、けれども強く“誰かを守る”という意思を固めていく。
果たして、国を超えて結ばれたふたりの絆は、
長きにわたる国同士の分断を乗り越え、本当の平和をもたらすことができるのか――?
注目ポイント!
「偽りの夫婦」から始まる、じんわりと育つ恋愛描写
最初は国の都合と偶然に出会ったふたり――
気弱で純粋なナランバヤルと、芯が強く優しいサーラ。
そんな2人の心の距離が少しずつ近づいていく様子が丁寧に描かれていて、一瞬の言葉や仕草がすごく大切に扱われてる。
静かで、でも深く感情に響く恋愛描写が魅力。
政治・階級・外交がテーマの“ファンタジーであり社会ドラマ”
金の国は「豊かだが傲慢」、水の国は「貧しいが心優しい」という対比がされていて、対立する文化・政治・価値観が、リアルで重厚。
単なる架空の世界の話ではなく、「今の世界」にも通じる構造が見えてくる。
“犬の花嫁”というユニークなモチーフが切ない寓話性を演出
バイカリが「犬を花嫁として送る」という設定は一見コミカルだけど、その裏には「貧しい国の抵抗」「蔑まれても誇りを守る姿勢」が詰まってる。
犬と共に現れるサーラのたたずまいは、まるで寓話のようでとても印象的。
背景美術・色彩・衣装が“異文化”を鮮やかに映すビジュアル
水と金をテーマにした国同士ということもあり、衣装や建物、食文化、風景などがすごく丁寧に描かれていて、まるで絵本の中に入ったような世界観。
アラビアンな雰囲気と水彩風の柔らかさが絶妙で、観てるだけで癒される人も多いはず。
“物語る力”が希望をつなぐ鍵になる
登場人物たちは、政治や暴力で戦う代わりに、「物語ること」で相手と向き合おうとする。
言葉、手紙、心の告白――そういう“語り”が、争いではなく理解を育てていくと思う。
この視点はとても文学的で、観終わったあとに静かに心に残る。
あとがき
『金の国 水の国』は、異なる価値観と文化をもつ二つの国のあいだに生まれたひとつの“偽りの夫婦”から始まる美しい物語でした。
豪奢で傲慢な金の国と、貧しいが温かな水の国という対比は、現実社会の格差や国際関係を連想させながらも、どこかおとぎ話のような空気感で描かれており、観る者を優しく物語へと導いてくれます。
この作品の魅力は、何よりも大きな音や派手な演出はなくとも、人物たちの表情や言葉、沈黙の間に込められた感情が、ひしひしと心に伝わってくる点にあります。
サーラとナランバヤル、ふたりの間に育っていく小さな信頼と温かな思いは、まるで水面にひろがる波紋のように、静かに、けれど確かに心を揺さぶっていきます。
“異なるもの同士が向き合う”ことの意味や、理解し合おうとする努力がどれほど尊いものか――
本作はそれを押しつけがましくなく、淡々と、でも真摯に描いています。
そして、政治的な駆け引きや国の存亡といった重いテーマも、サーラとナランバヤルの“誠実さ”を通して人間的な物語へと昇華させています。
また、絵本のような美しいアニメーションも、この物語に深みとやさしさを与えています。
「水と金」、「自然と都市」、「柔らかさと華やかさ」といった視覚的な対比が、キャラクターたちの心の変化や、国同士の和解への道のりを、より詩的に映し出していました。
『金の国 水の国』は、目立つ映画ではないかもしれませんが、観た人の心にそっと残り、気づけば何度も思い返してしまうような、不思議な余韻を持った作品です。
大切な誰かと一緒に観て、観終わったあとに静かに感想を交わせるような、そんな時間まで含めて楽しめる映画だと感じました。
ワーナー・ブラザース公式サイト 映画 劇場作品「金の国 水の国」
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